ベルモットが望む銀の弾丸(シルバーブレット)
シルバーブレット(組織を撃ち抜く弾丸)は赤井秀一と工藤新一の二人。さらに、ミステリートレインでは宮野夫婦が研究中の薬をシルバーブレットと期待していることが追加される。
ジン:「ああ・・・あの方が奴の何を恐れているかは知らねぇが・・・所詮1匹・・・」「銀の弾1発じゃ、黒い大砲には勝てねぇよ・・・」 File:599
赤井秀一をシルバーブレットと”恐れている”のは組織のボスである「あの方」。
エレーナ:(実はお母さんね・・・)(今、とても怖ろしい薬を作ってるの・・・)(ラボの仲間は夢のような薬って浮かれてるけど・・・)(父さんと母さんは願いを込めてこう呼んでるわ・・・)(シルバーブレット・・・)(銀の弾丸ってね!) File:821
宮野夫婦は自分たちの研究している薬を「シルバーブレット」として”願いを込めている”。
ベルモット:(そう、彼よ・・・)(私の胸を貫いた彼なら・・・)(なれるかもしれない・・・)(長い間待ち望んだ・・・)(銀の弾丸(シルバーブレット)に・・・) File:434
一方で、工藤新一をシルバーブレットと”期待している”のは、幼児化の事実を知っているベルモットだけ。
あの方、宮野夫婦(エレーナ、厚司)、ベルモットの三人が、それぞれシルバーブレットと認識する対象が異なること、またシルバーブレットに対する感情も恐れ、願い、待ち望んだ(期待)と違うところも重要。
なぜ新一なのか?
赤井秀一よりも頭が切れそうだと判断したとか、組織にその存在が注目されていないから出し抜きやすいからとかではない。もちろん、そう言った事実も確かにあるのだが、重要なのは別の理由。
(私の胸を貫いた彼なら・・・)(なれるかもしれない・・・)
ちゃんと読めばもう答えが書かれてしまっているが、ベルモットは「私の胸を貫いた彼ならなれるかもしれない」と言っている。
新一:「人が人を殺す動機なんて、知ったこっちゃねーが・・・」「人が人を助ける理由に・・・」「論理的な思考は存在しねーだろ?」 File:354
シャロン:「それより蘭ちゃんに伝えといてくれる?」「あなたの言う通り・・・」「私にも天使がいたみたいって・・・」 File:354
1年前のNY編、ベルモットは新一と蘭の二人に命を助けられた出来事以来、「天使なんかいない」と悲観的だった人生観を大きく変えられた。
シャロン=ベルモットについては↓
ベルモット不老の秘密
上記の新一をシルバーブレットと期待しているところが、ベルモットの「核」になる部分なのでしっかりと押さえておくところ。ベルモットの行動の真意を深く読んでいくと、全てここへ繋がる。
ちなみに ─
コナン:「犯人を推理で追い詰めて、みすみす自殺させちまう探偵は・・・」「殺人者とかわんねーよ・・・」
服部:「おーおー耳が痛うてかなわんわー」「完璧なお前しかいえんセリフやのォー・・・」
コナン:「ハ・・・完璧な人間なんてこの世にいやしねーよ・・・」「オレだってたった一人・・・」「たった一人だけ・・・」 File:153
ベルモットの件とは対照的な出来事。コナンは過去に1度だけ推理で犯人を追い詰めて自害させてしまったことがある。(コミック7巻 ピアノソナタ『月光』殺人事件)そして、コナンは後になってもそのことを悔やんでいる。
コナンの探偵としての在り方を変えた出来事【ピアノソナタ『月光』殺人事件】
これもまた、今後のストーリー展開に大きく関わってくることがあるかもしれない。
赤井秀一への期待は薄いのか?
ベルモット:「や、やっぱり、相撃ち覚悟であの時殺っておけばよかったわ・・・」「ボ、ボスが・・・あの方が・・・」「我々の銀の弾丸(シルバーブレット)になるかもしれないとお、恐れているあの男を・・・」 File:434
ベルモットは赤井秀一は”殺っておくべきだった”と言っている。「あの時」はNY編で通り魔に変装して赤井をおびき出し始末しようとした時のこと。
まぁ、これは念のためジンに嘘をついた、本音ではないと考えておく必要もあるかもしれない。また、本来なら、新一同様に期待していいはずのシルバーブレットである赤井を襲撃しようとしたのはおかしいのだが、新一に出会ったのはまさにその直後。
(長い間待ち望んだ・・・)
しかし、ベルモットは”長い間”シルバーブレットを待ち望んでいたと言っている。新一はたまたまベルモットの価値観変えたのではなくて、ようやく現れた救世主。
赤井がベルモットの期待に応えられる人間であったのなら、もっと前から赤井をシルバーブレットになれると考えていたはず。ところが、ベルモットは赤井を殺そうとしていた。赤井はベルモットにとって期待どころか、敵対勢力と考えられている。
ベルモット:(いや・・・)(組織の心臓を射抜けるシルバーブレットは・・・)(もう1発・・・) File:599
ベルモット:(2発なんかいらないわ・・・)(シルバーブレットは・・・)(1発あれば十分よ・・・) File:609
ベルモットはシルバーブレットは”1発あれば十分”と、赤井にはほとんど期待していない。
こだわるのはあくまで新一。ベルモットが本当に組織の崩壊を望んでいるのなら、弾は多ければ多いほうがいいはず。赤井も新一に劣らない切れ者。しかし、ベルモットは大切な弾を1発失っても全く動揺していない。
灰原:「そのかわり約束してくれる?私以外、誰にも手をかけないって・・・」
ベルモット:「いいわ・・・FBIのこの女以外は助けてあげる・・・」 File:434
ベルモットにとってFBIのジョディは抹殺対象だが、赤井への期待が薄いのなら、赤井もまた他のFBIメンバーと同じ扱いということになる。
赤井と新一の違いは?
なぜベルモットは新一に期待して赤井には期待していないのか── という疑問はベルモットの核の部分に振り返ればいい。ベルモットが新一に期待するのは自分の「胸を貫いた(心を動かした)」から。
赤井秀一があの方に恐れられているのは、新一と同じレベルの頭の良さに加え、FBIという組織の後ろ盾、銃やドライブテクといった戦闘能力も群を抜いたレベル。様々な修羅場をくぐり抜けた経験も豊富。(あの方が、赤井だけが何らかの自分の弱みを持っていることを恐れている可能性もあるが、ベルモットはその武器には期待していない。)
実際、組織にスパイとして潜入、急激なスピードで出世して「その男(ジン)さえおさえればボスまで辿り着ける~」と考えられたところまで懐に入り込んで来た。これまでの赤井秀一(FBI)の行動を見ていくと、彼らが行おうとしているのはそのまま、FBIとしての権力・武力による制圧・拘束。
そもそも、ベルモットがシルバーブレットに求めている能力は赤井のような”戦闘力ではない”ということ。赤井はベルモットが望むシルバーブレットとは違うため、長い間待ち望んでいたにもかかわらず候補から落選したと言える。
赤井の銀の弾丸はボスの心臓を撃ち抜く本物の弾丸に例えれば、新一はボスの心臓でもハートを撃ち抜く弾丸。そして、ベルモットが自分のハートを貫いた新一に期待しているという事は、それと同じ事を期待しているということ。
少年漫画としてはベタだが、あだボスの正体を突き止め逮捕して終わりではなく、ラストを決めるにはふさわしい設定ではある。工藤新一は例え犯罪者であっても、他者がその命を奪う権利があるとは思っていない。
ベルモットは組織の崩壊を望んでいるのか?
ベルモットが求めているのは本物の弾丸ではなくてハートを貫く弾丸。これがわかれば、ベルモットの組織内での立ち位置もはっきりしてくる。
ベルモットは組織はあまりにも巨大すぎて、武力では制圧できないと考えている。いわゆる剛よりも柔だと考えている可能性もありえなくはないが、そうすると、他の面が繋がらなくなる。
単純に組織を崩壊を望んでいるのであれば、ベルモットにとって赤井秀一もシルバーブレットの候補。むしろ、頭は切れるが所詮高校生探偵である新一よりも適任と言える。
裏を返せば、ベルモットは強引な組織の壊滅、いわゆるボスの殺害や逮捕による解決は望んでいないことになる。これが真であれば、ベルモットは「組織の崩壊を望んでいる」というのは必ずしも間違いではないが、やや拡大解釈で正確な表現ではない。
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